よしだ福祉会「とちのみの家」
2025.03.27

イラスト:社会福祉法人よしだ福祉会 施設長 錦織 美由起さん
1994年の設立以来、30年以上にわたり島根県雲南市で地域に根ざした福祉活動を続けている「よしだ福祉会」。その拠点である介護施設「ケアポートよしだ」には、天然温泉の源泉を活用した温泉プールがあり、幼児から高齢者まで幅広い世代に開かれた施設となっています。福祉の枠を超え、地域全体のつながりや健康促進の場としても親しまれています。
これまでも地域との連携を大切にしてきた「よしだ福祉会」が新たに計画している「もうひとつの家」プロジェクトの施設「とちのみの家」は、どんな場所になるのでしょうか。理事長の藤原さんと施設長の錦織さんにお話を伺いました。
お話を伺ったスタッフ
社会福祉法人よしだ福祉会 理事長藤原 伸二さん
社会福祉法人よしだ福祉会 施設長錦織 美由起さん
家族と地域とともに、自分の生きたい人生が選択できるように
新たな取り組みとして「もうひとつの家」を作ることになった経緯を教えてください。
藤原:2021年に「親の看取りについて」全国でアンケートを取ったデータ(※1)を見て、家族の看取りに「後悔がある」と答えた人の数がすごく多いことを知りました。当時はコロナ禍で最期に一緒にいられなかったから尚更だったと思いますが、最期だけの問題ではないのではないかと思いました。
福祉施設でお預かりすると施設側でケアするという感じになってしまいがちですが、ご家族やご本人が後悔しないようなケアをするためには、本当は福祉と医療と、時々家族も一緒になってチームでやっていかなければいけないと思います。ずっとではなくても時々でも家族にも参加してもらって、家族も看取った感覚がしっかり持てるような、一連のかかわりの流れを「もうひとつの家」ならできるのではないかと考えました。
錦織:それと、この中山間地域の大きな課題は、家そのものはあるのですが、共に暮らす家族がいなくなっているという点です。ですから、自分の家に住み続けることが難しくなり、たとえば外へ出たお子さんが安心するために町外や県外の施設に早々と入所を決めて、ご本人は地元を離れたくなくてもそれを受け入れざるを得ない状況があります。
自己決定支援が叫ばれているにも関わらず、逆行しているのではないかという想いがあり、最期まで自分が主役であって、自分の人生を自分で選んで自分の輝きで生きる、そういう場所を作りたいと思っていました。
藤原:実施するにあたっては、職員だけでなく、家族や地域の人たちにも、どうしたら一緒に支援ができて看取りができるかを勉強してもらう機会をつくって、福祉と地域と家族と医療とが一丸となって本人を支えられるような地域をつくっていきたいと思っています。入居人数はたった6床なので少ないですが、地方の小さな町ですから、このくらいのスタートがいいのではないかと思っています。
「とちのみの家」を作ろうと思ったときに、まずどういった方々と協議したのでしょうか。
錦織:元々は社内で、まず30代40代の若手・中堅の社員と一緒に今後を考える「未来プロジェクト」の構想があって、今、周りの介護力、福祉力が下がってきている、福祉人材も減ってきているという危機感があり、これからどうしていこうかという話のなかで出てきた案です。私たちは在宅支援を行なっていて、特に在宅看取りをずっと支援してきましたが、もっと最期までしっかり支援できる場所を作っていきたいという声が職員の中から上がってきたのがきっかけです。
また、10年ぐらい前に一度地域住民にアンケート(※2)を取っていまして、そのなかで老後の「住まいの不安」として、このままだとこの地域で暮らせなくなるんじゃないかという声が多かったんです。それで、その問題を解決するためにどうしたらいいかと色々と検索するなかで、日本財団さんの「もうひとつの家」プロジェクトが目につきました。そして実際にいくつか見学にも行って、私たちもこれをやりたいと思いました。
(※1)2021年9月、「テレ東プラス」がYahoo!ニュースの協力のもと、全国の40代~60代の男女2,000人を対象に「親の看取り」をテーマに実施したアンケート調査(出典:https://www.tv-tokyo.co.jp/plus/lifestyle/entry/2021/024688.html)
(※2)2015年5月、(福)よしだ福祉会が独自に実施した、吉田町在住の全603世帯を対象とする「住民の皆様の在宅生活に関する意向調査」((福)よしだ福祉会による独自調査)
地域に開いて、誰もが居場所と感じられる「実際の家よりも開放された家」

「とちのみの家」は具体的にどんな施設になる予定でしょうか。
錦織:建物は自由度の高さ、選択肢の広さを考えて、普通の「家」という感じより、少し開放的な建物になっています。家族が泊まれて、動物も泊まれて、暮らし方を好きなように選べる、そして、地域ともつながれる場所であることを大切にしています。
この町の皆さんはだいたい住む家はあるので、家が良ければ家にいることはできます。うちには在宅の看取りができるスタッフもいます。その中でこういう場所を作ることの意義は、家ときどき「とちのみの家」や「とちのみの家」ときどき病院、死ぬときは病院でも、もちろん最期まで「とちのみの家」でも、色々自分で自由に選べるところです。
今、家族が少なくなって、動物を家族として一緒に暮らしていらっしゃる方が多いですが、動物がいるために家から離れられないという方もいますので、動物も一緒に入居できるようにしました。家族は当たり前に出入りできます。それと敷地には、畑や庭も作ることを考えています。家というよりは地域の住宅というか、地域を感じて暮らせる場所として、グループホスピスと呼んでいます。
入居される皆さんはどういう生活をされるのですか。スケジュールみたいなものはあるのでしょうか。
錦織:何も決めないつもりです。6床すべてがすでに予約で埋まっているのですが、介護のレベルも入居の背景も違う方たちです。介護サービスが必要な人と医療が必要な人には、隣の「とちのみ」(看護小規模多機能型居宅介護事業)から職員の来る時間帯がありますが、それ以外は自由に過ごしていただくつもりです。
入居予定のうちのお一人は犬と一緒に来られます。また、その方はまだお元気なので、食事出しなどもお手伝いいただきながら一緒に暮らせたらと話しています。グループホスピスの意義としては、そうやって元気な方は働いたりしながら助け合いができることでもあると思っています。小さな自治会みたいな感じになったらいいなと思っています。
ただ、最期のところだけはこちらからきちんとご本人の意向を確認します。皆さんなかなか自分からは言えなかったりしますので。最期が近くなられた入居者に対しては終末期の個別ケアで、本当にご本人が最後にやりたいことや、記憶にアプローチをしていけるようなことは行うつもりですが、それ以外は好きに過ごしていただけたら。

建物は他の「もうひとつの家」よりも広々として開放的な雰囲気がありますね。
錦織:交流棟の部分が、大きく見えるところなのかもしれません。この交流棟を作った理由の1つは、循環させたいから。つまり、若い世代に看取りに触れてもらったり、学んでもらったり、ということができるスペースを作りたいと思いました。ワークショップやイベントができて、元気なときからデイサービスの方たちが使うこともできるし、お葬式もできるような場所として考えています。
やはり「もうひとつの家」というのは、地域とのつながりがあってこその場所じゃないかというのが私たちの結論なんです。昔は家でお葬式していましたので、昔のようにみんな集まってお葬式までができるような場所を目指しています。
入居を希望している方ではなくても行きやすいような場づくりを考えられているんですね。
錦織:そうですね。地元で安心して生活できる、その本人が元々暮らしていた地域に住み続けられることを、この家から発信できるんじゃないかなと思って。
皆さん家を住み替えることにはあまり抵抗はないようなのですが、やはり地域を離れるのは大きな決断。そんななかで、心配だから自分たちの住む町外や県外の施設に入れたいと思っていた家族が、「もうひとつの家」のような場所で暮らすことで本人の望みも叶えられるし、地域がボランティアという形で一緒にやってくれて安心できると思ってもらえたらいいなと思っています。
地域の皆さんが使える相談室も作るつもりです。心配事がある時に、地域の人たちがちょっと相談する場がないので、「もうひとつの家」にいる職員が日替わりで相談に乗れるようにして。カフェのような場所もあるので、お茶を飲みながら、ちょっと介護保険について聞きたいとか、お葬式のことを心配しているとか、気軽に相談にできる場所にしたいと思います。医療職もいますので、ある程度病気の対応の相談にものれます。

これまでの事業との違い、もうひとつの家だからこそできることがたくさんありそうですね。
錦織:今ある介護施設でも入所の方は皆さん「ゆめ・人・ つながり手帳」という自己決定の手帳を使って意思決定し、これまでの人生、これからの人生、そして今どうするかは書いてもらうようにはしています。ただ、今までの施設では家族も巻き込んでやることが難しかったので、「とちのみの家」では、もっとご家族も参加できる仕組みを作りたいと思っています。
夫婦であったとしても、もちろん親子であったとしても、死について語り合うという習慣が本当にないと思います。30代、40代の若い人たちにいきなり「親はいつかは死ぬ」という語りかけをしてもすぐに変化は見られないので、この新しい場をきっかけにアプローチの方法を変えたいと思っています。
「とちのみの家」という、「実際の家よりも開放された家」という場の力を借りて、死は自然なことであるという部分の体験も自然とできるような学びの場へとつなげたいと思っています。そして、学びだけでなく、地域の人たちがちょっと遊びに行きやすい場所として認識してもらえるようになったらいいなと思っています。
想いがつながっていけば、地域の大きな力になる
今、「とちのみの家」の開設に向けて色々進められていると思いますが、苦労している点や今までの福祉事業とは違う点があれば教えてください。
錦織:私たちが今進めるなかで割と悩んでいるところは、人材育成です。これが非常に大事ではないかと思っています。人材育成にも2つあって、まずはスタッフ、職員たちの人材育成と、それから、例えば地域の看取りの考え方を熟成させていくための看取りボランティアの育成、この2つをこの事業をきっかけにどんどん進めていきたいと思っています。
先ほども言ったように、自己決定支援が今の介護保険事業ではできておらず、結局は全部家族に委ねられてしまっているのが現実です。それを変えるためにスタッフが自己決定支援を学んで、意思決定や「今どう生きるのか」を書き残すためのお手伝いができて、きちんと個別ケアができるスタッフをもっと増やしたいと思っています。こちら主導ではなく、相手のケアを一人ひとりちゃんと考えていくところまでスタッフが育たないと、うまく循環していかないと思うんです。
「とちのみの家」に対する周りの反応、期待感はいかがでしょうか。
錦織:地域の方たちに集まっていただいて、このプロジェクトについてお伝えしたことがあるのですが、来ていただいた方が夫婦とも70代以上の方たちが多く、当事者意識もあり、安心できる住まい、夫婦で一緒に暮らせる場所がほしいということで、反応はとても良かったです。
同業者も、これは必要なことなので興味もあるし、また色々教えてほしいとか、一緒にやっていきたいという声はたくさんありますが、小規模施設ですので法人単位ではなかなか新規事業として浸透させるのは難しいのかなとは感じています。
藤原:私たちも正直経営はギリギリのところでやっています。でも、今、社会福祉施設が効率化のために合併してどんどん大規模の施設ができていて、それは必ずしも利用者と職員にとって良い環境ではないのではないかと感じています。
「もうひとつの家」のような小さな施設をやることは採算としてはあまり良くないかもしれませんが、最期まできちんと支援できた方が事業としても安定しますし、看取りまで一人の方に付き添えることは職員の達成感にもつながります。利用者への個別ケアと、職員がやりがいや達成感を持ちながら仕事ができる環境として、是非やるべきことだと思います。
最後に、今後「もうひとつの家」の立ち上げを考えている方へメッセージをお願いします。
錦織:こういう場所を作りたいという方が何人か相談に来ていますので、一緒に盛り上げていけたらと思います。将来的には、「とちのみの家」だけではなく、近くに「もうひとつの家」がいくつかできたら福祉の力がつながっていきます。法人合併とかではなく、想いでつながっていけば、地域の大きな力になると信じています。

社会福祉法人よしだ福祉会
事務長 稲田 晴信 さん
施設長 錦織 美由起 さん(取材でお話を伺ったスタッフ)
とちのみ(訪問看護ステーション) 管理者 大島 真澄 さん
とちのみ(看護小規模多機能型居宅介護) 所長 木村 妙子 さん
理事長 藤原 伸二 さん(取材でお話を伺ったスタッフ)